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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3627号 判決 1950年3月18日

被告人

株式会社ナミデン

右代表者取締役 宮崎椋松

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

理由

弁護人黒坂一男の控訴趣意第一点について。

物品税法が昭和二十四年四月三十日法律第四十三号酒税法等の一部を改正する法律により一部改正があり照明器具の税率が百分の五十から百分の三十に改められ同年五月一日から施行されたこと及び原判決の擬律において右改正法附則第二項あるいは刑法第六条を挙示していないことは所論のとおりである。

惟うに刑法第六条は一般的に犯罪後の法律によつて刑の変更のあつたときは軽きものを適用すべき旨命じており右税率が課税標準額の百分の五十から百分の三十に引下げられた以上、一応右法条にいわゆる刑の変更のあつた場合ともいえる筋合があるが右改正法附則第二項には「この法律施行前に課した若くは課すべきであつた物品税についてはなお従前の例による」旨の規定があり、また同第二十一項においては「この法律による他の法律の改正前になしたる行為に関する罰則の適用についてはなお従前の例による」と規定している結果、前記刑法第六条の規定は自らその適用の余地なきに至つたものと解するのが相当であり換言すれば右改正は刑法第六条適用の関係では刑の変更なきものと同一視するものに外ならないから原判決が改正前の規定に準拠して処断するにあたり所論の規定を挙示しなかつたことを彼是云為するのはあたらない。

(弁護人黒坂一男の控訴趣意第一点)

原判決は其の判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤があるものと信じます。

即原判決は其の理由の部に於て本件課税物品は物品税法第一条所掲の第一種丙類二十九号該当の照明器具であると判示し且其の擬律の部に於て「法律に照すに被告人宮崎椋松の判示各所為は物品税法第十八条に該当するところ、同条第二項に依り所定刑中懲役刑を選択し右は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条第十条に依り最も犯情の重い判示第六の罪の刑に法定の加重を為した刑期範囲内に於て被告人を懲役六月に処し、被告株式会社ナミデンに対しては其の代表者である被告人宮崎椋松の前記の如き被告会社の業務に関し前記物品税法第十八条の違反行為を為したものであるから物品税法第二十二条第二十一条に則り同法第十八条第二項所定の罰金を科すべく云々」と判示し被告人宮崎椋松を懲役六月同株式会社ナミデンを罰金合計八百五万円に処して居るのであるが右被告両名に対する本件公訴の提起前である昭和二十四年四月三十日(本件起訴は昭和二十四年六月三十日であることは本件起訴状に徴し洵に明かである)法律第四十三号同年同月同日政令第八十三号に依り物品税法は一部改正せられ本件課税物品たる照明器具は物品税法第一条所掲の第一種丁類四十四号に組替えられ従て其の税率も従前の百分の五十から百分の三十に改正せられ同年五月一日から施行せられて居ることは右改正法令に徴し疑のないところである。而して物品税法第十八条違反罪の法定刑は懲役刑に付ては暫く之を措くも罰金刑は其の逋脱し又は逋脱せんとしたる物品税の五倍又は五倍を超え十倍以下に相当する罰金を以て処罰すべきものであることは之亦同法条に依り明かである。即物品税法第十八条の罰金刑は其の逋脱物品税額の多寡に依り其の罰金刑も自ら軽重を来すのであり其の物品税額の多寡は其の税率に因るものであることも論を俟たないところである。従て右改正法令は物品税法第十八条の所定罰金刑を変更したものと云うべきである。而して本件被告人両名の行為は昭和二十二年十月以降昭和二十三年十月迄の物品税の逋脱を為し又は為さんとしたものであると認定されて居るのであるから右改正法令は正に刑法第六条の犯罪後の法律に因り刑の変更ありたるときに該当するものであることは一点の疑なきところである。左れば右刑法第六条に因り軽き改正税率百分の三十に依る逋脱税額を基礎として罰金刑を科すべきものであるに拘らず改正前の物品税法に因り重き百分の五十の税率を基礎として其の逋脱税額を算定し更に之を基礎として罰金額を算定処断したことの明かな原判決は右刑法第六条の刑の変更ありたるときは其の軽きものを適用するとの一般原則法の適用を遺脱し不当に重き罰金刑を科した違法があり到底破棄を免れないものと信ずる。

尤も前記改正政令たる物品税法施行規則附則第二項には「この政令施行前に課した若しくは課すべきであつた物品税又は納付すべきであつた取引高税についてはなお従前の例による」旨の規定があつて結局本件の逋脱物品税額は改正前の百分の五十の税率を以て算定せられなければならないのではあるが右附則条項は刑法第六条の一般原則規定に対する例外規定であるから若し之が適用を遺脱するときは当然右一般原則規定である刑法第六条に依り軽き刑を以て処断すべきものであるから此の一般原則規定である刑法第六条の適用を遺脱しながら而も其の処断に当つては軽き刑を以て処断したる場合と同一に論ずることは到底出来ないと信ずる。即右例外規定の適用を遺脱しながら重い刑を以て処断することは右例外規定は勿論一般原則規定をも遺脱したるか或は例外規定を遺脱して原則規定を適用しながら尚且之を誤り重き刑を以て処断したるかの孰れかに該当し適法に軽き刑を以て処断しながら偶々一般原則規定の適用を遺脱したるに止る場合とは同一に論ずることは出来ないからである。果して然らば右例外規定である改正政令附則条項の適用は勿論一般原則規定たる刑法第六条の適用をも為さずして漫然改正前の重き百分の五十の税率規定に準拠して処断した原判決は明かに判決に影響を及ぼすべき法令の適用を誤つた違法があり到底破棄を免れないものと信ずる。

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